「芸術を創る脳」(東京大学出版会)備忘録

「芸術を創る脳」(酒井邦嘉編、曽我大介、羽生善治、前田知洋、千住博 東京大学出版会)を読んで、印象に残った箇所を。


曽我『…指揮者が指揮棒を振るのは、言葉では伝えられないものを伝えるためだと思います』

酒井『書き込むとそれがさらに記憶を助けることになります。(中略)書き込んで内容を徹底的に自分のものにしようとすると、吸収が早くなりますね。(中略)記憶容量が限られているなどと考えないことです』

 

羽生『美というものは、一定のものではなく、変わっていくものなのだと私は思っています。真理もまた、追い求めていくうちに、実は基準自体も変わり続けている。そこに面白さがあるのかなという気がします』

 

前田『私がマジックを始めた頃、素晴らしいマジシャンたちが、千尋の仕事をとても大事にされているのを見て、自分も何となく古典を大事にしなければいけないと思いました。その後、武道の世界を知るようになると、こちらはもう伝統と研鑽しかありません。(中略)「型破り」という言葉がありますが、「型を破るには、型を知らないと破れないよ」と私は若い人たちに言っています。まずきっちりと古典を身につけて、型ができるようになってから、自分らしさを出せばいいのです」酒井「ジャンルを問わず優れた芸術は、世界のどこででも、そしていつの時代でも、美しいし感動できる。人間の普遍性を追求することが、芸を極めることに通じると言えます』

 

千住『芸術は、何も人がびっくりするようなことではなくて、皆が忘れてしまっていること、忘れているけれども人々が必要とすることを提案できるかどうかで真価が問われるのです。「こんな単純なことが、実は本当に必要で大切なんだ」ということに気づかせるのが、とても大事なポイントです。(中略)芸術とか美といううものは、まさに「生きる」という切実な本能なのです。美とは、生きていくことに対するメッセージです」千住「文明が進むほどいろいろなものが分割され、更に細分化されていきます。(中略)それが、互いの諍いの原因になっています。権力や領土だけでなく、人種や宗教までもが紛争の原因になってしまいました。そこで、「人間の共通項で語りましょう」と言うことが、芸術の重要な役割の一つなのです。(中略)いかに共通項で語るか。「インターナショナル(国際的)」「グローバル(世界的)」と言われますが、わざわざそう言わなければいけないこと自体が問題なのです。世界が一つならば、そもそも声高に言う必要がないわけですから』

酒井『音楽もそうなのですが、絵を描いて構成していくときの秩序も、人間の言語能力に支えられていると私は考えています。音楽で言えば楽章・楽節(旋律の単位)・モチーフ(動機)、絵で言えば全景・主題・ディティール(細部)といった階層性は、文章・分・単語という言語の階層性と共通点があります(略)』

千住『芸術の共通点として、私はプロセス(過程)を重視しています。音楽も、一楽章から四楽章まで聴いてみることで、作曲家が描こうとした世界の全体像が追体験できます(中略)

美術というのは、「見えるものを忠実に再現して魅せる」ものではありません。「見えないものを、なんとかして見えるようにする」のが、ヴィジュアル・アート(視覚芸術)なのです。同じように、音楽は、「聞こえないものを、なんとかして聞こえるようにする」芸術です。ですから、「見えないもの」や「聞こえないもの」に対して、作り手が最初にどんな想像力を持っているかが問われます。制作に至るまで、どのような生き方をしてきたか、そのプロセスも大事なのです。人生のプロセスを通して、どんなことを見えるようにして伝えたいのか』

阪本 正彦 オフィシャルサイト

指揮者 阪本正彦のオフィシャルサイトです。 指揮活動情報その他をお知らせいたします。 演奏会指揮だけでなく、下振りとしての合奏指導、分奏指導等にも日本全国どこへでも伺います。 ご用命はお気軽にメッセージ(hornist@mac.com)にて。

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